どの分野も素人

a.k.a. チラ裏

きゃたつ=三都慎司説

 こんなツイートがあった。

 確かに似ている。そして上記のツイートはこう続く。

 三都慎司=紙魚丸説はなかなか豪快で笑ってしまった。このツイートを引用して紙魚丸はやんわりと否定していたので、少なくとも紙魚丸は別人だろう*1。しかしこの「きゃたつ」なる漫画家のことを私は知らなかったので、少し調べてみた。イラスト1枚で見るとたしかに三都慎司そっくりだが、本当に同一人物なのだろうか。

結論:同一人物

 いきなり結論だが、十中八九きゃたつと三都慎司は同一人物である。以下にその根拠を示す。

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『ふぉとくら』第1話1ページ目

 ↑が『ふぉとくら』第1話1ページ目だ。1コマ目のパンツをよく覚えておいてほしい。

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三都慎司のFANBOX投稿一覧

https://www.fanbox.cc/@shinjimito/posts?page=2より

 続いてこちら(右側)は、三都慎司のある日のFANBOXの投稿である。有料記事なので中身までは貼らないが、これを見ればきゃたつが三都慎司の別名義であることは一目瞭然だろう。

補足(内容紹介)と終わりに

 全然『ふぉとくら』の内容に触れずに来てしまったので、ここらで紹介しておこう。『ふぉとくら』は多分フォトクラブの略で、もしかするとフォトグラフとかけているのかもしれない。大学の写真部(男2:女2)が部室や各々の部屋で駄弁る話で、大体『惰性67パーセント』である。作中の写真部の部長(平沢)が住む寮が「近衛寮」という名前*2なので、舞台はおそらく京大写真部だ*3

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『ふぉとくら』第6話1ページ目

 新規入寮で揉めている吉田寮(をモデルにしていると思われる学生寮)で「入寮生募集中」の看板を掲げているのは、もしかしたら作者の思想なのかもしれない*4
 三都慎司作品にたまにあるコミカルなやり取りが好きな人、『惰性67パーセント』が好きな人は楽しめると思う。だが『ふぉとくら』と『惰性』はあくまで似て非なるものなので、「『惰性』があるから十分!ケッ!」とか言わずに読もう。面白いよ。

 ちなみに、当たり前だが何故別名義なのかは私は知らない。シリアスな話は三都慎司で、コメディはきゃたつでいくのだろうか。

*1:紙魚丸 on Twitter: "惰性はキャラの目が基本ベタでやっつけてるから多分 別人… "

*2:かの有名な吉田寮は、かつて吉田近衛寮と呼ばれていたらしい。京都大学吉田寮 - Wikipedia

*3:ちなみに三都慎司は京大OBだそうだ。なにかを諦めるということ|Shinji Mito|pixivFANBOX

*4:個人の深読みです。

歴史を学べば、警察との問答も楽しくなる

 警察に「適正アルコール量は?」と尋ねられたことはあるだろうか。私はある。猟銃の所持許可を警察に申請したときにされた。警察は申請者がマトモなやつかそうでないかを見極める必要があり、その一環として警察官と申請者一対一での面談があり、その中で上記の質問が繰り出された*1

 この質問が繰り出されたとき、私は無難な回答をしながらも、内心その意図をはかりかねていた。前科とかを訊くならわからんでもない*2。だが適正アルコール量って何だ。そんなもん訊いて一体何がわかるんだ。

 この質問の答えを求め、私は5000年前に飛んだ。

現代文明の源泉

 前4000年紀後半から前3000年紀にかけて、ティグリス川とユーフラテス川に挟まれたメソポタミア南部ではシュメール人と呼ばれる民族が複数の都市国家を形成し、覇を競い合っていた。彼らがどこから来たのかはわかっていないが、彼らの残した文化はギリシア、ローマに受け継がれている。現代の先進諸国の文明はヨーロッパの文明に端を発するので、シュメール人の文明はいわば現代文明の源泉である*3

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Standard_of_Ur_-_Peace_Panel_-_Sumer.jpg

 シュメール人の文明は人類最古の文明といわれるだけあり、現代社会にも残っている様々な制度や文化を生み出した。たとえばハンコ。現代日本はハンコ社会*4だが、その起源はシュメール社会に遡る。他にも、文字、政府、学校*5、学園モノの文学作品、法律、定礎などなど、シュメール社会に遡れる現代の文化は数多くある。

文明人の自負

 何故シュメール人は文字やハンコを生み出し、政府を組織し、種々の制度を整えたのか。それはシュメール人たちが「都市に住む文明人」を自負していたからである。中でも彼らは、ビールを飲むことを重要視していた。『ギルガメシュ叙事詩』には、ギルガメシュの友人、エンキドゥについてはじめ次のように記されている。

エンキドゥはなにも知らない
食物を食べることも
飲物を飲むことも
彼はならわなかった

矢島文夫 (1998)『ギルガメシュ叙事詩』 (ちくま学芸文庫) (p.40). 筑摩書房. Kindle版. 

 ここでの飲物とはビールのことである*6。エンキドゥは大地の女神アルルによって泥から生み出された人間であり、当初は森で野獣のような生活を送っていた。「食物を食べることも 飲物(ビール)を飲むことも 彼はならわなかった」とは、その野獣っぷりを表現した言葉である。

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https://www.ancient-origins.net/news-history-archaeology/sip-sumerian-ancient-beer-recipe-recreated-millennia-old-cuneiform-tablets-021492 より。
上段右2人は甕からストローでビールを飲んでいる*7

 また、シュメール人はビールについて次のようなことわざも残している。

楽しくなること、それはビールである。いやなこと、それは(軍事)遠征である。

ビールを飲みすぎる者は水ばかり飲むことになる。

小林登志子 (2005)『シュメル―人類最古の文明』p.58, 中公新書

 いかにシュメール人がビールを飲むことを重視していたかがわかるだろう。

 しかも、シュメール人は当時からアルコールに対する水の有効性を理解していたらしい。アルコールには利尿作用があり、酒ばかり飲んでいると身体は脱水状態になる。身体が脱水状態になるとアセトアルデヒドの排出が遅れ、二日酔いになりやすくなる*8。よって二日酔いを回避するには、水をたくさん飲めば良い。シンプルだが効果的な手法である。

アルコールと上手に付き合う(適正アルコール量を定量的に把握して)

 話を戻そう。警察は何故、猟銃の所持許可を申請した奴に対して「適正アルコール量は?」と訊くのか。それは5000年前からビールを飲むことが文明人の証であり、5000年前から人類はビールに含まれるアルコールと上手に付き合ってきたからである。警察に言わせれば、己の適正アルコール量を把握していないような奴は文明人ではない、文明人ではない奴に銃は持たせられない、ということかもしれない。

 さて、それでは適正アルコール量とは一体どれくらいなのか。そんなもん人によるだろと思うかもしれないが、実は「節度ある適度な飲酒」というものが厚生労働省により次のように定められている。

節度ある適度な飲酒:1日平均純アルコールで約20グラム程度の飲酒
厚生労働省, 健康日本21, https://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/about/intro/index_menu1.html

 純アルコール20gというと、ビールなら500mlである。ロング缶1本飲めば終わりだ。個人的には少なくない?とは思うが、日本人は酒に弱い人が多い*9ので、本当はそのぐらいに抑えておくのが良いのかもしれない。

終わりに

 警察の何気ない問いには5000年の歴史が詰まっていた。「歴史を学ぶのは現代を理解するため」という言葉を高校の世界史か日本史の授業で聞いた気がするが、全くその通りである。

参考文献

 この記事のネタ元。

シュメル―人類最古の文明

 シュメール人関連の話はここから。この本を読めば、シュメール人がいかに多くのものを生み出したのか、またそれが現代に受け継がれているかがわかる。固有名詞がわんさか登場してややつらい部分もあるが、読んで損はない。ちなみに日本では「シュメール」表記が一般的でこの記事もそれにならったが、「シュメル」の方が本来の発音に近いらしい。

ギルガメシュ叙事詩

 ご存知ギルガメシュ叙事詩である。名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。金ピカ鎧だったり上裸だったりするアイツの元ネタだ。他にもエンキドゥとかイシュタルとかエレキシュガルとか、聞いたことのある名前が登場する。普段やってるソシャゲの出典が知りたい人は読むといい。ソシャゲをやってない人も、この本単体で面白いので読むといい。さすがにギルガメッシュ叙事詩そのものが面白いとは言い難いが、この本は半分ぐらいが訳者による解説で、その解説が面白いのだ。

 せっかくなので原典*10よろしくタブレットで読め、と言いたいところだが、タブレットは注釈と本文の往復が大変なので紙で読んだほうが読みやすいと思う。私はタブレットで読んで大変だった。

無水アルコールの美味しい飲み方

 「酒に含まれるアルコール量を定量的に示す」というアイデアはこの本から。飲めないはずがない無水アルコールが何故飲んではいけないことになっているのかについての丹念な調査と、無水アルコールを美味しく飲むためのレシピが載っている本(同人誌)。身近な存在であるアルコールの毒性についても触れられているので、酒好きは読んで正しい知識を身に着けると良い。500円でPDF版が買える。

*1:他には「ギャンブルはする?」などがある。

*2:そっちでわかるだろとかは置いておいて。

*3:旧約聖書に登場するノアの方舟の伝説も、もとを辿ればシュメール人の伝説に行き着く。

*4:ここ1年ぐらいで急速に廃れてはいるが。

*5:政府で働く役人を養成するためのものなので現代の学校とはだいぶ趣が異なるが、親が物事を教えるより子供を1箇所に集めて教えることの上手い人が教えたほうが合理的という思想は紛れもなく学校である。

*6:ちなみに食物はパン。

*7:当時のビールは濁り酒で表面に麦の殻が浮いていたため、葦のストローで飲んでいたと考えられている。

*8:飲酒時は脱水状態になりやすい。|経口補水療法|味の素株式会社

*9:テーマ02 「あなたはお酒が強い人?弱い人?」|国税庁

*10:粘土板。

刃を研ぐ際に見るべきアニメ1位は『らき☆すた』

 皆さん刃は研いでおられるだろうか。私は日々研いでいる。

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画像はイメージ

 ここでいう「刃を研ぐ」とは7つの習慣的な話ではなく、物理的な刃物を研ぐことである。私は平均して週に1,2頭のイノシシやニホンジカを解体し、解体に用いたナイフは随時砥石で研いで切れ味を復活させている。しかし時には研ぐ暇もなく次から次へと解体することもあり、そうなると刃の切れ味は徐々に落ち、遂には全く切れなくなる。この間研がずに5頭目の解体に着手したら全く切れず、刃を注視したら若干波打ってすらいた。

 全く切れなくなったナイフの切れ味を復活させるには、金か時間をかける必要がある。粗い砥石を買えば手っ取り早く復活させられるが、今月の出費はできるだけ抑えたかったので、私は今ある砥石*1で長時間研ぐ道を選んだ。その際に少々の学びを得たので記事にする。

長時間は研げない

 刃物を研ぐ行為は単純作業の繰り返しである*2。ただただ愚直に、一定の力加減とリズムで砥石の上にナイフを滑らせる。砥石の表面が乾いてきたら水を垂らす。これをナイフが切れるようになるまでやる。それだけだ。

 シカやイノシシを1,2頭の解体をしただけのナイフなら5分も研げば元通りの切れ味になるが、波打った刃を元に戻すのはそう簡単ではない。研いでも研いでも終わりが見えず、気づけば私の手は止まっていた。理由は明白で、飽きたのだ。ただただナイフを滑らせる作業が面白いはずもない。しかし、手を動かさなければいつまで経ってもナイフの切れ味は元には戻らない。どうしたものか。

らき☆すた』を見て機械になる

 森博嗣は自身の著作で次のように書いている。

「集中」とはすなわち、人間に機械のようになれという意味なのだ。集中力というと聞こえは良いけれど、言い換えれば「機械力」が相応しい。人間らしさを捨てて、脇目も振らず、にこりともせず作業をしなさい、ということである。

森博嗣(2018)『集中力はいらない』p.6, SBクリエイティブ.

 なるほど。私に足りなかったのは集中力だと思っていたが、もっと言えば機械のように淡々と作業する能力だったようだ。だが原因がわかったところで、足りない集中力(機械力)がいきなり生まれてきたりはしない。特に打開策を見いだせなかった私は、とりあえずNetflixを開き、『らき☆すた』を見始めた。

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らき☆すた』第1話

 見ている間は手は空いているので、とりあえず研ぎ始めた。するとどうだ。かつてないほど研ぎは捗り、2話分ほぼ休まずに研ぎ続けられ、若干波打っていた刃は元以上に切れるようになった。

ラジオや音楽ではダメなのか

 これまで、ナイフを研ぐ際にラジオや音楽を聴いたことはあった。それでもそれなりに捗っていたのだが、『らき☆すた』視聴時の研ぎの捗りは、ラジオや音楽を聴いた時の捗りとは桁違いだった。一見すると耳だけ取られるラジオや音楽の方が、目も耳も取る『らき☆すた』に比べて私の集中を阻害しないように思えるのだが、現実は逆だった。何故こんなことが起こるのか。

 おそらくは、「ナイフを研ぐ」という作業が簡単すぎるのが原因だ。ナイフを研ぐ際にはほとんど頭を使わないので、ラジオや音楽を聴いてもなお脳のリソースが余る。余ったリソースで他のことを考えてしまい、結果手が止まる。

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研ぎ + ラジオの際の脳内

 これに対して、『らき☆すた』を見ながら研いだ場合はどうか。耳だけで内容を把握できるラジオや音楽とは異なり、『らき☆すた』を見る場合は当たり前だが目を画面に向ける必要がある。そのため『らき☆すた』を見ながらナイフを研ぐと、ラジオや音楽を聴いているときよりも他のことを考える余裕はなくなり、より集中できる(機械に近づける)。

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研ぎ + らき☆すたの際の脳内

何故『らき☆すた』なのか

 これは私の肌感覚でしかないのだが、単純作業のお供に適した映像作品には2つの特徴がある。

  1. 内容が無に近いこと。
  2. 「作品の内容は知らないけど、キャラクターは見たことがある」くらいの作品であること。

 1は首肯しやすいだろう。いくら単純作業のお供とはいえ、緻密な脚本やダイナミックな展開が売りの作品を研ぎながら見るのは難しい*3し、そもそもそういう作品は片手間ではなくちゃんと見たい。そうなると、多少見逃しても見逃した部分が気にならないよう、内容が気にならないもの、平たく言うと内容が無の作品が望ましい。

 次に2の話にうつるが、いくら単純作業のお供とはいえ、全く知らない内容が無の作品を見るのは辛い。2はそういう悲しい体験を回避するための大事なポイントである。一切の取っ掛かりがないと見る気が全く起こらないが、キャラクターというフックがあればまだ見ようかなという気になる。

 この2つの条件を満たすのが、私にとっては『らき☆すた』だった。

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OPサビ前で一瞬だけ映るダブルピースかがみん

 メインの4人は見たことがある。ツインテールのキャラがゆるきゃらと化している*4のも知っている。あとOPも知っている。そしてこれは見始めてから知ったのだが、内容が無である*5。それらを兼ね備えた『らき☆すた』の作業捗らせ力は絶大であり、故に『らき☆すた』を見ながら研がれた刃物の切れ味は一味違うものとなるのだ。

終わりに

 『らき☆すた』は私にとっては最高の単純作業のお供だったわけだが、おそらくこれは万人に適用できるものではない。ただ一般的な傾向として、作業中に何度も端末を操作するのは煩わしいので、ある程度の再生時間のあるものがお供には向いているだろう。

参考文献

 この記事のネタ元。

集中力はいらない

 ミステリィで有名な著者が近年ずっと量産しているエッセィのうちのひとつ。著者の他のエッセィとの内容面での被りが散見されるので、いくつか著者のエッセィを読んだことがあるなら正直読む必要はないと思う。

「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》

 互換性、ひいては標準の歴史を辿った本。前の記事*6でも使った。基本的には物の規格の話をずっとしているのだが、第五章では「科学的管理法」の名のもとに人間の動作を標準化し、機械工に最高効率の働きをさせようとした技術者、フレデリック・W・テイラーの話が出てくる。

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File:Frederick Winslow Taylor.JPG - Wikimedia Commons

 『集中力はいらない』を読むと、テイラーが「人間を機械の代わりにしようとした人」に思えて味わい深い*7

らき☆すた

 2021年11月10日現在、『らき☆すた』はNetflixでも配信しているが、13日に配信が終了してしまう。Huluやdアニメストアでも配信しているようなので、気になる人は早めに見るか、配信しているサービスと契約しよう。

*1:

*2:こう書くとこだわりのある人からは石を投げられそうだが、シカやイノシシの解体に使うナイフぐらいなら実際そうなのだ。

*3:どうしても流し見になるので。

*4:かがみん、不審な男に声掛けられる寸劇 アリオ鷲宮で110番キャンペーン 緊急性ない相談は♯9110に

*5:チョココロネの食べ方とか、普通に見たら見てられないと思う。

*6:罠ガールは槍を作るべき - ラテン語で言えば何でも立派に聞こえる

*7:実際そうなのかもしれないが。

罠ガールは槍を作るべき

 ここ数年狩猟免許取得者が微増している。

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鳥獣関係統計 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]より作成

 正確に言うとわな猟免許所持者が増加している。農家が自分の田畑を守るために取得しているのだと言われているほか、『山賊ダイアリー』をはじめとする狩猟漫画の影響を指摘する声もある*1

 そんな背景もあってか、罠猟漫画『罠ガール』がヒット*2している。

 以下あらすじ*3

とある田舎町で暮らす女子高生の朝比奈千代丸。家が農家である彼女は、畑を荒らす野生動物を捕獲するため18歳にして「わな猟免許」を所持している。農作物を守るため、千代丸さんは今日もクールに害獣捕獲……。リアル農家マンガ家・緑山のぶひろが贈る、害獣駆除の現場をリアルに、わかりやすく、そしてかわいく描いた業界初の罠猟コミックです!

 あらすじに偽りはなく、かわいらしい絵柄だが結構リアルな漫画である。罠かけたけど餌ばっか食べられて萎えるとか、畑やってる人が一切対策せずに狩猟免許持ってる人に対策丸投げするとか、作中に登場するホームセンターがコメリ(のもじり)だとか。紛れもなく日本の(本州の)農村の風景である。作者のリアル農家マンガ家の肩書きは伊達ではない。

 そんな罠ガールだが、中には重大な事故に繋がりかねないヒヤリハットシーンもある。

木の棒ヨシ!

 第1話で千代丸(アホ毛のある方)は、くくり罠で捕獲したイノシシを仕留めるためにその辺に落ちていた木の棒(とナイフ)で立ち向かっている。結果的にこの方法で無事仕留められていたが、これはかなり危ない。木の棒とナイフでイノシシを仕留める場合

  1. 木の棒で頭頂部を強打して気絶させる。
  2. 前脚の間、首のつけねをナイフで刺す。

という手順になるが、まず1が難しい。イノシシを確実に気絶させるには上から振り下ろす形で棒を振る必要があるが、これが意外と狙ったところに命中しない。狙うべき範囲(頭頂部)が狭い上、当然イノシシは攻撃を回避しようとするからだ。しかも頭頂部を外して背中や鼻先を攻撃してしまうとイノシシはヒートアップしてますます動きが激しくなり、なおのこと狙いづらくなる。そうなるとワイヤーか脚を引き千切って逃げてしまう可能性も上がる。一撃で気絶させるべく木の棒を鉄パイプに持ち替えたとしても、攻撃が当てづらいことに変わりはないので、この問題は解決しない。

 千代丸が今後安全狩猟に励むためには、何か別の手段でイノシシやシカを仕留められるようになる必要がある。個人的に『罠ガール』には末永く続いてほしいので、この記事では木の棒での殴打に代わる仕留め方を検討していこう。

空気銃 vs 知り合い vs 槍

 18歳という千代丸の年齢を考えると千代丸自身は猟銃(散弾銃)を持てないので、イノシシをやシカを仕留める際に取り得る手は3つ。

  1. 第二種銃猟免許を取得し、空気銃を所持する。
  2. 獲れる度に知り合いの猟師に電話して来てもらう。
  3. 槍を手に入れる。

 このうち1と2は個人的にはおすすめしない。まず1についてだが、1は単純に費用と時間がかかりすぎる。第二種銃猟免許を取得して空気銃の所持許可をもらうにはかなり短めに見積もっても半年はかかる上、一般的に空気銃は散弾銃よりも高価だ。散弾銃は中古を探せば5万で手に入ることもあるが、昨今の空気銃は20万は見ておいた方が良い。その上自宅で銃を保管するならガンロッカー(数万円)が、銃砲店に委託するなら月々の手数料(と使用する度に取りに行く手間)が必要になる。小遣いで罠を賄っている千代丸にこの出費は厳しいだろう。

 次に2だが、まず毎回都合良く駆けつけてくれる人がいるとは限らないという問題がある。暇そうに見える猟友会のおじいちゃんにだって予定はあるからだ。それともうひとつ、イノシシやニホンジカについては捕獲頭数に比例した報償金(報奨金)が役所から出ることが多いのだが、この分配で揉める可能性がある。人間金が絡むと揉めるもので、昔は仲良くやっていた猟友会が、報償金が出るようになってから揉めるようになった、という話もあるぐらいだ*4。千代丸が猟師に仕留めてほしいとお願いする場合、必然的に千代丸の立場は弱くなる。「お前の報償金の半額を寄越せ」と言われて、千代丸は強気に交渉できるだろうか*5

 というわけで、1も2も問題があるため、千代丸が取るべき手段は3の「槍を手に入れる」である。

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マンモスと戦う原始人のイラストhttp://www.irasutoya.com/2019/10/blog-post_41.html

 槍は有史以前から人類が使用してきた伝統ある猟具であり、実は今でも狩猟の現場では活躍している。使用時に獲物と距離が取れるため、鉄パイプや金属バットで殴って気絶させる方法に比べて使用者の安全性が高い、くくり罠で捕獲した獲物に加えて箱罠で捕獲した獲物にも使用できる、非力な人間でも高い威力が出せ、バイタルゾーン*6を狙える分致命傷にできる当たり判定が広い、狩猟用途で所持、運搬する上で特別な許可が不要であるなど、槍には様々なメリットがあるのだ。

購入 or 自作

 槍を手に入れる方法は2つある。買うか作るかだ。実店舗で槍が販売されているのは見たことがないが、幸い現代はインターネット時代。チョイとググると良さげな槍がヒットする。

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刃物センターサカモトhttp://hamonocenter.blog.fc2.com/blog-entry-75.html

 こちらは槍タイプが21500円、剣鉈タイプが27000円(それぞれ柄付き)+ 送料。

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猟師の店ナガイhttp://www.sisiniku.com/Knife/knife02.html

 こちらの槍は断面が三角形で、折れ曲がりにくくなっている。お値段は驚きの68544円(送料は不明)。随分高価だが、それだけ良い物なのだろう。

 さて、おおよそ30000円も出せば槍が手に入ることがわかったが、18歳の千代丸にはこれでもかなりの出費だ。さらに安価に手に入れるには作るしかない。

Let's 自作

 槍を作る上でまず刺突部(先端)が必要になる。パッと思いつくのはフクロナガサと呼ばれる、柄の部分が筒状になった、木の棒などを突き刺して槍のように使用できるナイフだが、これは中々高価で30000円ほどするものがざらにある。

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e刃物comhttps://www.ehamono.com/washiki/nagasa/index.html

 なので千代丸が買うべきはアメリカのナイフメーカー、COLD STEELがフクロナガサを模して製造した(と思われる)ブッシュマン(商品名)である。

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ミリタリーショップレプマートhttps://repmart.jp/products/95bus.html

 圧倒的に安い。COLD STEELは安価かつ質実剛健な製品を作ることで有名で、空中に吊るした肉塊を切る、丸めた畳を切る、車のボンネットにナイフを突き刺すなどのパフォーマンスで知られる。

 価格だけ見れば不安になるが、製造元がここまでやってくれている。安心して購入しよう。

 次に柄だが、柄は分割可能であることが望ましい。安全のためにも柄は170cmほどほしいが、170cmの棒を持ち運んだり家に置いたりするのはかなり邪魔になるからだ。簡単に入手でき、分解可能な棒。条件を満たすのは、アイリスオーヤマのメタルラックのポールだ。

 ポール径は色々あるが、ブッシュマンの持ち手に丁度良くはまるのは19mmだ。もう1回り太い25mmはギリギリはまらない。19mmだと見た感じ細くて頼りないが、なに、曲がったらまた買えば良い。1000円も出せば家まで届く。

 ポールをブッシュマンにただはめるだけではすっぽ抜けてしまう可能性があるので、ポールとブッシュマン両方に穴を開けてボルトで固定しよう。インパクトドライバ*7と5mmのドリルビットがあればすぐにできる。ブッシュマンの持ち手には元から片側に5mmの穴が開いている*8ので、それをガイドにすれば良い。

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穴を開けたものがこちら

 あとはこの2つをボルト(5mm径)と蝶ナット(当たり前だが同じく5mm径)で固定して完成だ。

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ポールがズレてるが、これは私がまっすぐ穴を開けられなかったためだ。素人なので許してほしい。

 簡単でしょう?

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分割大事

 槍として使わないときのポールはブッシュマンを外して分割しておけば邪魔にならない。

 ブッシュマン5000円(送料込み)、インパクトドライバ7000円、ドリルビット1500円、ポール1000円、ボルトとナット500円、どんぶり勘定だが総額15000円で槍が完成した。これなら千代丸にも手が届くだろう。このためだけにインパクトドライバを買うのはちょっと・・・・・・と言うなら、さらにもう5000円出してディスクグラインダとノコギリを買って、くくり罠を自作しよう*9。くくり罠は自作すれば1つ1000円もしないので、10個も作れば元が取れる。よく獣に蹴飛ばされて消失するくくり罠だが、自作できれば痛くも痒くもない。

 ちなみに私は槍を作ってから、くくり罠にかかった鹿を2度仕留めた*10。目測で体重50~60kgの鹿の肩甲骨は貫通したが、肋骨に阻まれ、1発では刃はバイタルまでは到達しなかった。刃がうまく肋骨の隙間に入ればバイタルに届くはずだが、肋骨の隙間がどこにあるかなんて皮の上からはわからない。槍で仕留める場合には、肋骨の隙間に刃が入ることを信じて鹿や猪の側面から槍を刺しまくるか、オーソドックスに正面から首のつけね辺りを狙うと良いだろう。

電気槍じゃダメなんですか?

 あえて言おう。ダメであると。

 最近流行りの銃を使わずに仕留める道具といえば電気槍(電気止め刺し器)だが、これは雨の日は使用できないという制約がある上、うっかりバッテリーの電源を切り忘れて人に感電したら大惨事になる。電気槍には電気という目に見えない危険がつきまとうため、個人的にはおすすめしない。人間は必ずミスをする生き物なので、気をつければ大丈夫というのは大丈夫ではないのだ。

終わりに

 一応書いておくが、ワイヤーか脚が今にも千切れそうだとか、ワイヤーのかかりが浅くて脚がすっぽ抜けそうだとか、100kgを超えるようなイノシシがくくり罠にかかったとか、明らかに危険な状況下では、槍なんて原始的な道具に頼らず、銃を扱える人にすぐに電話して仕留めてもらうよう依頼すべきだ。その場合は報償金で揉めるかも・・・・・・とか考えている場合ではない。安全第一、報償金第ニ。

参考文献

 この記事のネタ元。

図解 近接武器

 いろんな武器が載ってる本。日本では所持できなさそうなものが数多く載っているが、眺めているだけでもそこそこ楽しい。ファンタジーとか書く人には役立つかもしれない。

「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》

 互換性、ひいては標準の歴史を辿った本。この記事で紹介した槍作りに使用したものはすべて市販品で、パーツを失くしてしまってもすぐに代わりが手に入る。これは歴史的に見ると最近の出来事であり、先人たちの努力、犠牲、戦いの賜である。iPadにいつまでもType-c端子が搭載されないことに憤っているくらいに互換性に敏感な人は読むと良い。

罠ガール

 千代丸がイノシシに木の棒で立ち向かうエピソードは1巻に収録されている。その後立派な角のニホンジカにも木の棒で立ち向かおうとするが、その際には自らの手には余ると判断し、猟師を呼んでいる。引くことを覚えたようだ。

*1:

わな免許取得者が増加 農作物被害増受け | ニュース和歌山

*2:シリーズ累計38万部はヒットと呼んでいいだろう。

*3:

『罠ガール』(緑山 のぶひろ)のあらすじ・感想・評価 - comicspace | コミックスペース

より

*4:伝聞です。

*5:地域で分配比率が決まっているなら良いが。

*6:心臓とか肺とかがある急所。

*7:バッテリー式とコード式があるが、使用頻度が月1を下回るならコード式がおすすめ。バッテリーを過放電させてしまう心配がないし、何より安い。もちろんドリルドライバでも問題ない。

*8:何故両側に開けてくれていないのか。

*9:やや原始的だが、木の板2枚を蝶番で開閉するよう組み合わせ、直径12cm以下に削れば立派なくくり罠だ。木はノコギリで山から調達すれば良い。

*10:もちろん槍で。

コンセントタイマーで始める快適起床生活

 現代社会は遅刻に厳しい。残業は何時間でもスルーするくせに、遅刻となると1秒でも認められないものである。その上現代社会は朝型を前提にして設計されており、8:30とか9:00だとか、大体そのぐらいの時間が始業時間になっている*1。これは夜型人間にとってあまりにも厳しい現実である。
 しかし、社会を呪ってばかりいてもはじまらない。周囲を変えるのは困難極まりないが、それと比べると自分を変えるのはまだ容易だ。そう、つまり、観念して朝起きるのが最善策なのだ。

 私の知る限り、起床を苦手とする人間が最も簡単に起床する方法はこれだ。

 設定した時刻になったら膨らむ空気袋をシーツやベットカバーの下に設置しておくことで、身体を持ち上げて起きようというコンセプトの目覚ましである。JRで使われているものらしく、その信頼性の高さがうかがえる。
 一方でこの定刻起床装置、かなり高い。1台およそ10万円する。ヤフオクとかメルカリではたまに7万円くらいで出品されてたりするが、それでも高い。いくら起床が苦手だとは言っても、目覚まし時計にそこまでかけられるのは少数派だろう。 

 というわけで、私が現在使用しているアイテムはこれだ。あまり馴染みがないとは思うが、要は任意の電子機器にタイマー機能(on/off両方)を付与するものだと考えれば良い。使い方は簡単、プログラムでonになる時間とoffになる時間*2をセットし、あとはコンセントタイマーをコンセントに差し、電子機器をコンセントタイマーに繋いで電源を入れるだけ*3。電子機器の側で電源が入っていても、コンセントタイマー側で設定した通電時間にならなければ電気は流れないので、例えば朝6-8時の間だけ扇風機をつける、という使い方が、扇風機側にタイマー機能がなくても可能になる。私はこのコンセントタイマーと電気毛布をつなぎ、毎朝6時になると電気毛布がMAXパワーで発熱するようにしている。まだまだホットな今日このごろではこれが目覚まし代わりになる。私はあまり音で起きないので重宝している。

 さて、コンセントタイマーの優れた点はその汎用性の高さにある。私は電気毛布に繋いでいるが、コンセントタイマーを使用すれば、コンセントで動く電子機器(電化製品)なら何でも任意の時間に起動することができる。私は寡聞にして知らないが、「ひたすらハリセンを振り回す機械」のようなものがあるなら、それとコンセントタイマーを繋ぐことで素晴らしい目覚ましが生まれるだろう。目覚まし時計よりも電気毛布よりも確実に起きられそうだ。業務用扇風機もいいだろう。中でも私のイチオシ*4は、コンプレッサーと浮き輪を利用する方法である。コンプレッサーと浮き輪を繋ぎ、コンセントタイマーを起きたい時間にセット。浮き輪が膨らみきるまでにコンプレッサーの電源を落とさなければ爆ぜてしまうというプレッシャーと緊張で起きられる確率は高まる上に、最悪爆ぜたら爆ぜたできっと起きる。すごい音がするだろうし。

 ちなみに浮き輪は2021年9月2日現在、安いものでも739円する。あまり爆ぜさせない方が良いだろう。

 コンセントタイマーを使って、君だけの最強の目覚ましを見つけよう。

*1:夜勤という選択肢もあるにはあるが、給与や福利厚生を考えると日中が勤務時間になっているところに勤めざるを得ない。

*2:つまり通電時間

*3:このコンセントタイマーにはコンセント(凸)とコンセント(凹)がひとつずつある

*4:試したことはないけど。