PC画面や映像がなめらかに動いていることが「ヌルヌル」と表現されるようになって久しい。10年ぐらい前にはこういう言い方をしていなかったような気がするが、果たして私の記憶は正しいのだろうか。ヌルヌルの起源を探る。
【目次】
- 今回探すもの
- 用例.jp
- ヌルヌル 動作 before:2008/8/10
- ヌルヌル 動く before:2006/12/1
- ヌルヌル サクサク before:2005/11/8
- ヌルヌル アニメ before:2004/8/30
- まとめ
今回探すもの
- PC画面や映像がなめらかに動いていることを指して「ヌルヌル」と表現している最古の用例。
用例.jp
まず手始めに用例.jpで「ヌルヌル」の用例を探す。もしかしたらここで見つかるかもしれない。
「ヌルヌル」で190、「ぬるぬる」で731の用例がヒット。余談だが、「ヌルヌル」だと村上龍が*1、「ぬるぬる」だと村上春樹がやたらとヒットした。村上姓の作家はヌルヌルぬるぬるしているらしい。
1000件弱の用例のうち、とりあえず私が探しているのに近い意味で「ヌルヌル」という言葉を使用している用例が3件見つかった。順に見ていこう。わかりやすいようにヌルヌル該当箇所は太字にしてある。
松倉 日本のアニメファンは3コマ作画という、24pだけど中に入っている絵は8枚っていうタイミングで動いている映像に慣れているので、3Dでヌルヌル動くのは嫌われる危険性がありました。ただそこは、SMDEさんの方でうまく調整していただいたので、非常にアニメチックに動いていると思います。そのあたりは経験とデータですね。ただレンダリング枚数は非常に多くなるので、撮影部にとっては大きな負担でしたが。
「ハイスコアガール」がアニメになるまで 制作統括・松倉友二のこだわりとJ.C.STAFFの挑戦(2/2 ページ) - ねとらぼ
我が目を疑ってしまった。戦場ヶ原さんの肉体が、まるで行き過ぎたCGのような、ぬるぬるした動作を見せたのだ。
西尾維新『猫物語(白)』
キャラクターの立ち姿のイラストに動きや視点移動の表現を与える画像技術を、登場人物との会話システムに組み込んだもので、O.I.U.システムとは「O(俺の)I(妹がこんなに)U(動くわけがない)システム」の略称とされる。原作ライトノベル中で作中アニメの動きを形容する表現として用いられていた「ぬるぬる動く」というフレーズが、本作の宣伝にも用いられている。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル - Wikipedia
ここでの原作とは伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第1巻を指す。
ねとらぼの記事は2018年8月10日公開、『猫物語(白)』の初版発行は2010年10月28日、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』第1巻の初版発行は2008年8月10日。10年前にはヌルヌル言ってなかったとか書いたが、実際にはもう14年前には用例があった。迂闊でした。・・・・・・とりあえず2008年8月10日を起点に、これより古い用例がないかを調べていこう。
ここからはGoogle検索のbeforeコマンドを使う。Google検索では「[検索したいワード] before:年月日」という風に入力すると、入力した日付よりも前に公開されたものを検索することができる。便利だね。
ヌルヌル 動作 before:2008/8/10
まぁやっぱ前評判どおり、従来のFPSのイメージとは違いライトゲーマー向けの作りで、動作は韓国ゲー独特のヌルヌル感が強く、FPSゲームとはあまり思えない操作感。(中略)低スペックでの動作を実現する為に最新FPSにしてはグラが旧世代のものだし、動作がぬるぬるしてるし。
上記のブログ記事の公開日は2006年12月1日。なんかヌルヌルをマイナスの意味で使っていて私が求める用例とは若干ズレてる気がしないでもないが、なに、これより古い用例を見つければ問題ない。
ヌルヌル 動く before:2006/12/1
おそらく最高画質設定であろうゲーム画面がヌルヌル動くのを見て、本気でハイエンドビデオカードが欲しくなりましたよ。
[ヌルヌル 動作]ではヒットしなかったので、検索ワードを[ヌルヌル 動く]に変えてみた。そうしてヒットした上記のGAME Watchの記事の公開日は2005年11月8日。だんだん遡る幅が小刻みになってきた。
ヌルヌル サクサク before:2005/11/8
もう、気味悪いほど、スムーズに、ヌルヌル動いて踊ります。
[ヌルヌル 動く]でもヒットしなくなったので、さらに検索ワードを変えた。ヒットしたのはまたしてもGAME Watchの記事である。今度は2004年8月30日。もうGAME Watch内で検索すればいいのではと思ってやってみたが、GAME Watchには残念ながらこれより古いヌルヌルの用例は見当たらなかった。
ヌルヌル アニメ before:2004/8/30
ここで今更ながら同人用語の基礎知識に「ぬるぬる動く」という項目があることを知る。
セル枚数がただ多いだけの動き、あるいは1990年代から一部のアニメが積極的にCGを効果として使うなどして、そのスムーズなだけでメリハリがない動きを、「気色悪い」「ぬるぬるとして気味が悪い」 と批判する意味で 「ぬるぬる」 を使うことがポピュラーになっていました。 元々はアニメの世界で批判的な意味で使われていた言葉が、ファン層はかぶりながらも価値観が微妙に違うゲームやパソコンの世界で意味が逆転して賞賛表現になった…。 言葉というのはとても面白い変化をするものです。
なんと、もともとスムーズな動きを指しての「ヌルヌル」はアニメの文脈で用いられていたらしい。というわけで検索ワードを[ヌルヌル アニメ]に変えて検索検索ゥ。
小黒 幻海が美形キャラと戦う話があったじゃないですか(第49話「残された力! 幻海の死闘」)。人魂みたいなエフェクトが出て、人を喰っちゃうところがあるんですが、あれも西尾さんの原画ですか。
西尾 そうです。
小黒 ああいうエフェクトも描くんですね。ヌルヌル系の。
西尾 ええ(笑)。まあ、あそこら辺も『八犬伝』ショックですよね。『八犬伝』を観ながら描いていたような気がします。
ヒットした上記の記事はアニメーターのインタビューであり、掲載日は2003年3月1日。記事を読んだ感じ、スムーズな動きを指しての「ヌルヌル」はこれ以前から用いられていたような雰囲気を感じるのだが、残念ながらこれ以上古い用例を見つけることはできなかった。完全に推測だが、これより古い用例となると紙の雑誌にあたらないと出てこないように思う。2003年以前ともなると雑誌の販売額は現在の2倍以上あり*2、まだ雑誌が元気だっただろうと思われるので*3。
まとめ
- インターネットで見つかる最古のヌルヌルは2003年3月1日のもの*4。
- もっと古い用例もありそうだが、それを見つけるには紙の雑誌にあたる必要がありそう。
この調査を始める前、私はPC画面や映像に対して「ヌルヌル」という表現を使うようになったのは比較的最近、早くともスマートフォンが普及し始めてからだろうと考えていた*5。しかし予想に反して、ヌルヌルの用例は19年前から存在していた。何事も調べてみるものだ。これがFACTFULNESSである*6。
最後に、用例.jpの検索結果を眺めているうちに得たちょっとした知見を共有してこの記事を終わりにしよう。
- 作家によって「ぬるぬる」表記か「ヌルヌル」表記かが分かれる。
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