どの分野も素人

a.k.a. チラ裏

罠ガールは槍を作るべき

 ここ数年狩猟免許取得者が微増している。

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鳥獣関係統計 || 野生鳥獣の保護及び管理[環境省]より作成

 正確に言うとわな猟免許所持者が増加している。農家が自分の田畑を守るために取得しているのだと言われているほか、『山賊ダイアリー』をはじめとする狩猟漫画の影響を指摘する声もある*1

 そんな背景もあってか、罠猟漫画『罠ガール』がヒット*2している。

 以下あらすじ*3

とある田舎町で暮らす女子高生の朝比奈千代丸。家が農家である彼女は、畑を荒らす野生動物を捕獲するため18歳にして「わな猟免許」を所持している。農作物を守るため、千代丸さんは今日もクールに害獣捕獲……。リアル農家マンガ家・緑山のぶひろが贈る、害獣駆除の現場をリアルに、わかりやすく、そしてかわいく描いた業界初の罠猟コミックです!

 あらすじに偽りはなく、かわいらしい絵柄だが結構リアルな漫画である。罠かけたけど餌ばっか食べられて萎えるとか、畑やってる人が一切対策せずに狩猟免許持ってる人に対策丸投げするとか、作中に登場するホームセンターがコメリ(のもじり)だとか。紛れもなく日本の(本州の)農村の風景である。作者のリアル農家マンガ家の肩書きは伊達ではない。

 そんな罠ガールだが、中には重大な事故に繋がりかねないヒヤリハットシーンもある。

木の棒ヨシ!

 第1話で千代丸(アホ毛のある方)は、くくり罠で捕獲したイノシシを仕留めるためにその辺に落ちていた木の棒(とナイフ)で立ち向かっている。結果的にこの方法で無事仕留められていたが、これはかなり危ない。木の棒とナイフでイノシシを仕留める場合

  1. 木の棒で頭頂部を強打して気絶させる。
  2. 前脚の間、首のつけねをナイフで刺す。

という手順になるが、まず1が難しい。イノシシを確実に気絶させるには上から振り下ろす形で棒を振る必要があるが、これが意外と狙ったところに命中しない。狙うべき範囲(頭頂部)が狭い上、当然イノシシは攻撃を回避しようとするからだ。しかも頭頂部を外して背中や鼻先を攻撃してしまうとイノシシはヒートアップしてますます動きが激しくなり、なおのこと狙いづらくなる。そうなるとワイヤーか脚を引き千切って逃げてしまう可能性も上がる。一撃で気絶させるべく木の棒を鉄パイプに持ち替えたとしても、攻撃が当てづらいことに変わりはないので、この問題は解決しない。

 千代丸が今後安全狩猟に励むためには、何か別の手段でイノシシやシカを仕留められるようになる必要がある。個人的に『罠ガール』には末永く続いてほしいので、この記事では木の棒での殴打に代わる仕留め方を検討していこう。

空気銃 vs 知り合い vs 槍

 18歳という千代丸の年齢を考えると千代丸自身は猟銃(散弾銃)を持てないので、イノシシをやシカを仕留める際に取り得る手は3つ。

  1. 第二種銃猟免許を取得し、空気銃を所持する。
  2. 獲れる度に知り合いの猟師に電話して来てもらう。
  3. 槍を手に入れる。

 このうち1と2は個人的にはおすすめしない。まず1についてだが、1は単純に費用と時間がかかりすぎる。第二種銃猟免許を取得して空気銃の所持許可をもらうにはかなり短めに見積もっても半年はかかる上、一般的に空気銃は散弾銃よりも高価だ。散弾銃は中古を探せば5万で手に入ることもあるが、昨今の空気銃は20万は見ておいた方が良い。その上自宅で銃を保管するならガンロッカー(数万円)が、銃砲店に委託するなら月々の手数料(と使用する度に取りに行く手間)が必要になる。小遣いで罠を賄っている千代丸にこの出費は厳しいだろう。

 次に2だが、まず毎回都合良く駆けつけてくれる人がいるとは限らないという問題がある。暇そうに見える猟友会のおじいちゃんにだって予定はあるからだ。それともうひとつ、イノシシやニホンジカについては捕獲頭数に比例した報償金(報奨金)が役所から出ることが多いのだが、この分配で揉める可能性がある。人間金が絡むと揉めるもので、昔は仲良くやっていた猟友会が、報償金が出るようになってから揉めるようになった、という話もあるぐらいだ*4。千代丸が猟師に仕留めてほしいとお願いする場合、必然的に千代丸の立場は弱くなる。「お前の報償金の半額を寄越せ」と言われて、千代丸は強気に交渉できるだろうか*5

 というわけで、1も2も問題があるため、千代丸が取るべき手段は3の「槍を手に入れる」である。

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マンモスと戦う原始人のイラストhttp://www.irasutoya.com/2019/10/blog-post_41.html

 槍は有史以前から人類が使用してきた伝統ある猟具であり、実は今でも狩猟の現場では活躍している。使用時に獲物と距離が取れるため、鉄パイプや金属バットで殴って気絶させる方法に比べて使用者の安全性が高い、くくり罠で捕獲した獲物に加えて箱罠で捕獲した獲物にも使用できる、非力な人間でも高い威力が出せ、バイタルゾーン*6を狙える分致命傷にできる当たり判定が広い、狩猟用途で所持、運搬する上で特別な許可が不要であるなど、槍には様々なメリットがあるのだ。

購入 or 自作

 槍を手に入れる方法は2つある。買うか作るかだ。実店舗で槍が販売されているのは見たことがないが、幸い現代はインターネット時代。チョイとググると良さげな槍がヒットする。

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刃物センターサカモトhttp://hamonocenter.blog.fc2.com/blog-entry-75.html

 こちらは槍タイプが21500円、剣鉈タイプが27000円(それぞれ柄付き)+ 送料。

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猟師の店ナガイhttp://www.sisiniku.com/Knife/knife02.html

 こちらの槍は断面が三角形で、折れ曲がりにくくなっている。お値段は驚きの68544円(送料は不明)。随分高価だが、それだけ良い物なのだろう。

 さて、おおよそ30000円も出せば槍が手に入ることがわかったが、18歳の千代丸にはこれでもかなりの出費だ。さらに安価に手に入れるには作るしかない。

Let's 自作

 槍を作る上でまず刺突部(先端)が必要になる。パッと思いつくのはフクロナガサと呼ばれる、柄の部分が筒状になった、木の棒などを突き刺して槍のように使用できるナイフだが、これは中々高価で30000円ほどするものがざらにある。

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e刃物comhttps://www.ehamono.com/washiki/nagasa/index.html

 なので千代丸が買うべきはアメリカのナイフメーカー、COLD STEELがフクロナガサを模して製造した(と思われる)ブッシュマン(商品名)である。

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ミリタリーショップレプマートhttps://repmart.jp/products/95bus.html

 圧倒的に安い。COLD STEELは安価かつ質実剛健な製品を作ることで有名で、空中に吊るした肉塊を切る、丸めた畳を切る、車のボンネットにナイフを突き刺すなどのパフォーマンスで知られる。

 価格だけ見れば不安になるが、製造元がここまでやってくれている。安心して購入しよう。

 次に柄だが、柄は分割可能であることが望ましい。安全のためにも柄は170cmほどほしいが、170cmの棒を持ち運んだり家に置いたりするのはかなり邪魔になるからだ。簡単に入手でき、分解可能な棒。条件を満たすのは、アイリスオーヤマのメタルラックのポールだ。

 ポール径は色々あるが、ブッシュマンの持ち手に丁度良くはまるのは19mmだ。もう1回り太い25mmはギリギリはまらない。19mmだと見た感じ細くて頼りないが、なに、曲がったらまた買えば良い。1000円も出せば家まで届く。

 ポールをブッシュマンにただはめるだけではすっぽ抜けてしまう可能性があるので、ポールとブッシュマン両方に穴を開けてボルトで固定しよう。インパクトドライバ*7と5mmのドリルビットがあればすぐにできる。ブッシュマンの持ち手には元から片側に5mmの穴が開いている*8ので、それをガイドにすれば良い。

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穴を開けたものがこちら

 あとはこの2つをボルト(5mm径)と蝶ナット(当たり前だが同じく5mm径)で固定して完成だ。

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ポールがズレてるが、これは私がまっすぐ穴を開けられなかったためだ。素人なので許してほしい。

 簡単でしょう?

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分割大事

 槍として使わないときのポールはブッシュマンを外して分割しておけば邪魔にならない。

 ブッシュマン5000円(送料込み)、インパクトドライバ7000円、ドリルビット1500円、ポール1000円、ボルトとナット500円、どんぶり勘定だが総額15000円で槍が完成した。これなら千代丸にも手が届くだろう。このためだけにインパクトドライバを買うのはちょっと・・・・・・と言うなら、さらにもう5000円出してディスクグラインダとノコギリを買って、くくり罠を自作しよう*9。くくり罠は自作すれば1つ1000円もしないので、10個も作れば元が取れる。よく獣に蹴飛ばされて消失するくくり罠だが、自作できれば痛くも痒くもない。

 ちなみに私は槍を作ってから、くくり罠にかかった鹿を2度仕留めた*10。目測で体重50~60kgの鹿の肩甲骨は貫通したが、肋骨に阻まれ、1発では刃はバイタルまでは到達しなかった。刃がうまく肋骨の隙間に入ればバイタルに届くはずだが、肋骨の隙間がどこにあるかなんて皮の上からはわからない。槍で仕留める場合には、肋骨の隙間に刃が入ることを信じて鹿や猪の側面から槍を刺しまくるか、オーソドックスに正面から首のつけね辺りを狙うと良いだろう。

電気槍じゃダメなんですか?

 あえて言おう。ダメであると。

 最近流行りの銃を使わずに仕留める道具といえば電気槍(電気止め刺し器)だが、これは雨の日は使用できないという制約がある上、うっかりバッテリーの電源を切り忘れて人に感電したら大惨事になる。電気槍には電気という目に見えない危険がつきまとうため、個人的にはおすすめしない。人間は必ずミスをする生き物なので、気をつければ大丈夫というのは大丈夫ではないのだ。

終わりに

 一応書いておくが、ワイヤーか脚が今にも千切れそうだとか、ワイヤーのかかりが浅くて脚がすっぽ抜けそうだとか、100kgを超えるようなイノシシがくくり罠にかかったとか、明らかに危険な状況下では、槍なんて原始的な道具に頼らず、銃を扱える人にすぐに電話して仕留めてもらうよう依頼すべきだ。その場合は報償金で揉めるかも・・・・・・とか考えている場合ではない。安全第一、報償金第ニ。

参考文献

 この記事のネタ元。

図解 近接武器

 いろんな武器が載ってる本。日本では所持できなさそうなものが数多く載っているが、眺めているだけでもそこそこ楽しい。ファンタジーとか書く人には役立つかもしれない。

「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》

 互換性、ひいては標準の歴史を辿った本。この記事で紹介した槍作りに使用したものはすべて市販品で、パーツを失くしてしまってもすぐに代わりが手に入る。これは歴史的に見ると最近の出来事であり、先人たちの努力、犠牲、戦いの賜である。iPadにいつまでもType-c端子が搭載されないことに憤っているくらいに互換性に敏感な人は読むと良い。

罠ガール

 千代丸がイノシシに木の棒で立ち向かうエピソードは1巻に収録されている。その後立派な角のニホンジカにも木の棒で立ち向かおうとするが、その際には自らの手には余ると判断し、猟師を呼んでいる。引くことを覚えたようだ。

*1:

わな免許取得者が増加 農作物被害増受け | ニュース和歌山

*2:シリーズ累計38万部はヒットと呼んでいいだろう。

*3:

『罠ガール』(緑山 のぶひろ)のあらすじ・感想・評価 - comicspace | コミックスペース

より

*4:伝聞です。

*5:地域で分配比率が決まっているなら良いが。

*6:心臓とか肺とかがある急所。

*7:バッテリー式とコード式があるが、使用頻度が月1を下回るならコード式がおすすめ。バッテリーを過放電させてしまう心配がないし、何より安い。もちろんドリルドライバでも問題ない。

*8:何故両側に開けてくれていないのか。

*9:やや原始的だが、木の板2枚を蝶番で開閉するよう組み合わせ、直径12cm以下に削れば立派なくくり罠だ。木はノコギリで山から調達すれば良い。

*10:もちろん槍で。

コンセントタイマーで始める快適起床生活

 現代社会は遅刻に厳しい。残業は何時間でもスルーするくせに、遅刻となると1秒でも認められないものである。その上現代社会は朝型を前提にして設計されており、8:30とか9:00だとか、大体そのぐらいの時間が始業時間になっている*1。これは夜型人間にとってあまりにも厳しい現実である。
 しかし、社会を呪ってばかりいてもはじまらない。周囲を変えるのは困難極まりないが、それと比べると自分を変えるのはまだ容易だ。そう、つまり、観念して朝起きるのが最善策なのだ。

 私の知る限り、起床を苦手とする人間が最も簡単に起床する方法はこれだ。

 設定した時刻になったら膨らむ空気袋をシーツやベットカバーの下に設置しておくことで、身体を持ち上げて起きようというコンセプトの目覚ましである。JRで使われているものらしく、その信頼性の高さがうかがえる。
 一方でこの定刻起床装置、かなり高い。1台およそ10万円する。ヤフオクとかメルカリではたまに7万円くらいで出品されてたりするが、それでも高い。いくら起床が苦手だとは言っても、目覚まし時計にそこまでかけられるのは少数派だろう。 

 というわけで、私が現在使用しているアイテムはこれだ。あまり馴染みがないとは思うが、要は任意の電子機器にタイマー機能(on/off両方)を付与するものだと考えれば良い。使い方は簡単、プログラムでonになる時間とoffになる時間*2をセットし、あとはコンセントタイマーをコンセントに差し、電子機器をコンセントタイマーに繋いで電源を入れるだけ*3。電子機器の側で電源が入っていても、コンセントタイマー側で設定した通電時間にならなければ電気は流れないので、例えば朝6-8時の間だけ扇風機をつける、という使い方が、扇風機側にタイマー機能がなくても可能になる。私はこのコンセントタイマーと電気毛布をつなぎ、毎朝6時になると電気毛布がMAXパワーで発熱するようにしている。まだまだホットな今日このごろではこれが目覚まし代わりになる。私はあまり音で起きないので重宝している。

 さて、コンセントタイマーの優れた点はその汎用性の高さにある。私は電気毛布に繋いでいるが、コンセントタイマーを使用すれば、コンセントで動く電子機器(電化製品)なら何でも任意の時間に起動することができる。私は寡聞にして知らないが、「ひたすらハリセンを振り回す機械」のようなものがあるなら、それとコンセントタイマーを繋ぐことで素晴らしい目覚ましが生まれるだろう。目覚まし時計よりも電気毛布よりも確実に起きられそうだ。業務用扇風機もいいだろう。中でも私のイチオシ*4は、コンプレッサーと浮き輪を利用する方法である。コンプレッサーと浮き輪を繋ぎ、コンセントタイマーを起きたい時間にセット。浮き輪が膨らみきるまでにコンプレッサーの電源を落とさなければ爆ぜてしまうというプレッシャーと緊張で起きられる確率は高まる上に、最悪爆ぜたら爆ぜたできっと起きる。すごい音がするだろうし。

 ちなみに浮き輪は2021年9月2日現在、安いものでも739円する。あまり爆ぜさせない方が良いだろう。

 コンセントタイマーを使って、君だけの最強の目覚ましを見つけよう。

*1:夜勤という選択肢もあるにはあるが、給与や福利厚生を考えると日中が勤務時間になっているところに勤めざるを得ない。

*2:つまり通電時間

*3:このコンセントタイマーにはコンセント(凸)とコンセント(凹)がひとつずつある

*4:試したことはないけど。